07年9月13日(木)

ADR概論レポート

posted by  西山 忠  in 08_生活・紛争(ADR), 09_未分類 | 

以下は、7月22日に掲載したADR概論の研修課題について、当方が提出したレポートです。締め切り間際になって、担当者から怒られて大あわてて書いたものなので、出来映えはよくないかもしれません。一応、参考になれば幸です。

問題 1
食肉の卸売りを業とするXは、Yとの間で、売掛金をめぐって紛争となっていたが、
両者は、次のような内容で和解が成立した。

① YはXに対して、Xの主張のとおり250万円の支払い義務があることを認める。
② Yは250万円の内金200万円の支払いに代えて、YがAに保管させている国産牛肉を譲渡する。
③YがXに対して牛肉を引き渡したときは、Xは残債権50万円の支払いを免除する。

その後、Yは、Xに本件牛肉を引き渡した。
以上を前提として、以下の場合に、Xは和解の効力を争うことができるか。

(1) その後、Yの債務が実は300万円であったことが判明した場合
(2) Yが引き渡した牛肉が実は、国産牛肉ではなく、外国産の安物であることが判明し た場合
(3) Yが牛肉を引き渡した後、ほどなくして、国産牛にBSEが多発し、国産牛の価格 が暴落するに至った場合

解答

一、はじめに
XY間に和解が成立した以上は、契約は維持されねばならないのが原則である。
しかし、契約の拘束力がいかなる場合にも制限されないとすると、当事者に酷な場合が生ずる。そこで、法は、例外的に契約の拘束力を制限する制度を設けている。

本問において検討すべきものとしては、以下の2点であると考えられる。
第1は、法律行為時において意思表示に瑕疵・欠缺があり法律行為が無効・取消となる 場合である。
第2は、法律行為は有効に成立したが、後の事情により、契約が解除される場合である。

ところで、小問(1)~(3)は、いずれも、一見すると和解契約の拘束力を維持することに難があると思われる事案である。しかし、子細に分析すると、(1)及び(2)と(3)では、事情が異なっている。すなわち、(1)と(2)は、和解契約の当初から契約内容に瑕疵が存在していたとも考えられる事案である。これに対して、(3)は契約当初において瑕疵はなく、契約後に事情が変化が変化している事案である。
したがって、小問(1)と(2)においては、法律行為が有効に成立していないのではないかが問題となり、小問(3)においては、有効に成立した和解契約を解除できるのではないかが問題となる。

以上を前提として、Xが和解の効力を争えるかを検討する。

二、小問(1)

和解契約により250万円の債務の存在が確定したが、300万円の債務の存在が判明した以上、Xとしてはこの金額を請求したいであろう。
そして、契約の一般原則から考えると、意思表示に錯誤がある以上、契約は無効であるはずである。(民§95)

そこで、Xは、和解契約の錯誤無効を主張できないかを検討する。

ところで、和解契約が成立すると、たとえ合意後に契約内容と異なった証拠が現れたとしても、新たな法律行為をしたものとして契約は維持され、錯誤無効の主張が許されない。(和解の確定効)(民§696)

これは、以下の理由に基づく。すなわち、和解は、当事者が互譲して、争いの対象となった権利関係を不問として、新たな法律関係を形成することにより、争いを終結することを目的とした契約である。それなのに、争いのむし返しを許すと、和解をした意味をなさないからである。

では、本条の適用範囲はいかなる事項に及ぶのであろうか。
和解の確定効が及ぶ範囲は、争いの対象となった事実に限られると考えるべきである。

なぜなら、もともとは無効であるはずの契約について、一般原則を変容して確定効を設ける以上、その適用範囲は制限的に考えるべきだからである。

そこで、本問において和解の確定効が及ぶか否かを考えると、本問の争いの対象は、売掛金の存否(ないしはその金額)であり、これは争いの対象そのものである。
したがって、確定効が及び、Xは、錯誤無効の主張ができない。

三、小問(2)
本問においても、和解契約当時において錯誤が存在しているので、Xとしては契約の無効を主張することが考えられるが、和解の確定効(民§696)が適用されるとすれば、この主張が封じれらる関係にある。
そこで、Xが錯誤無効の主張が封じられるのではないかを検討する。

しかし、本問においては、和解の確定効は及ばないと考えるべきであろう。
なぜなら、前問で検討したとおり、和解の確定効の及ぶ範囲は制限的に考えて、争いの対象となった事項に限られ、XY間にいて、争いの対象となっていたのは国産牛か否かではないからである。

では、Xは、錯誤無効の主張ができるか。
Xとしては国産牛と思っていたものが実は外国牛であったのであるから、この点に錯誤がある。しかも、これは和解契約の重要な要素として、この錯誤がなければ和解契約を締結しなかったと考えられる場合には、錯誤無効の主張要件(民§95)を満たす。

もっとも、給付物に瑕疵がある以上担保責任を主張することもできる。(民§570)そこで、この場合、錯誤と瑕疵担保責任のいずれをも主張できるのかが問題となる。
ところで、瑕疵担保責任の主張期間には制限(民§570、§566-3)が設けられている。
これは、法律関係を早期に安定させようとする趣旨に基づく。ところが、無効の主張期間には制限が設けれていないため、いつまでたっても契約の無効を主張できるとすると、法律関係は安定しない。

以上より、錯誤無効の主張はできず、瑕疵担保責任のみを主張できるにすぎない。

四、小問(3)
いったん有効に成立した契約を、後に生じた事情により解消できる方法としては、契約の解除が考えられる。
しかし、一方的な意思表示により解除できるとする明文の規定は、債務不履行を原因とする場合に限られる。(民§540以下)
本問では、国産牛の価格暴落につきYに帰責事由がないので、Xは債務不履行により解除できない。
もっとも、いかなる事情があろうとも、Xが契約の拘束に服さねばならないとすると、不合理な場合がありうる。そのため、事情変更の原則を適用して、契約内容の改訂することや契約を解除することが認められてよい。なぜなら、もともと契約当事者間においては、信義に従い誠実に合意内容を履行すべき関係にある以上(民§1-2)、合意の基礎とした事情に著しい変更が生じた場合には、当初の合意内容に変更を認める方がむしろ信義にかなうからである。

そこで、本問において、事情変更の原則を適用できるかを検討する。

まず、この原則の適用要件は、一般に以下の3つと考えられている。
①事情が著しく変更したこと
②事情の変更が予見不可能であったこと
③事情の変更につき当事者の責めに帰すべき事由がないこと

しかし、本問では上記要件のうち②を満たさないと思われる。
なぜなら、事情変更の原則は契約の拘束力を例外的に解消するものであるから、その要件は厳格に解さなければならないからである。

したがって、戦争時等の非常事態においてはこの要件を満たすことがありうるが、通常は価格が暴落したとしても当事者に予見可能性がないとはいえないと考えるべきである。

本問においても、Xに予見可能性がないとはいえないと思われる。

以上より、Xは、事情変更の原則を適用して契約を解除できないと考える。

以上

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